るーむ私記

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【漫画】セックスのあと男の子の汗はハチミツのにおいがする 感想

 漫画「セックスのあと男の子の汗はハチミツのにおいがする」の感想です(ネタバレ含)。
 
 著者・おかざき真里さんの著書はこれが初めて。
 タイトルと、表紙の百合感に惹かれて手に取りました。

 収録作品は表題作、「草子のこと」「おねえちゃん」「雨の降る国」「アイスティー」。
「雨の降る国」のみ全3話、他は20ページ程度の短編でした。
 収録順が初出順ではないのが少し不思議。単行本で初めて手に取っても違和感がないようにと並べ替えた結果かもしれません。

●セックスのあと男の子の汗はハチミツのにおいがする
 本書の中で一番好きな作品。
 百合ではないけれど、これから百合に発展する可能性もなきにしもあらず…という雰囲気のある作品でした。
 いとこの女の子の、異物のにおいに嫌悪する潔癖な表情がとても印象的。
 短い話なので彼女が主人公の家に来たいきさつについてはまったく語られていません。主人公のいとこで、姉がいる、くらいの情報しか読者には与えられないため、彼女がなぜ姉の元から出て行き、行き先を主人公の家にしたのかは不明。推測するしかありません。
 いわゆる「お年頃」の時、異性への嫌悪を強く抱くというのは往々にしてあることで、でも大抵の人はそれを乗り越えていきます。いとこの女の子もいずれそうなるのかもしれませんが、少なくとも今は嫌悪の渦中にあり、主人公はそれを乗り越えた後。
 乗り越えた時に目を背けた色々なことを、渦中にある彼女は決して見落とさない。だから主人公は男と出来なくなってしまった……などと思いました。

 まあそんな七面倒なことは考えても仕方がなくてね?
 いとこの彼女の唇の端の水滴の無防備さに見惚れていれば良いんじゃないですかね??

●草子のこと
 本書中、唯一1990年代に描かれた作品。収録作品の中では最古の作品と言えます。
(とはいえ、「草子のこと」が1999年初出で、2000年初出の作品もあるので数ヶ月程度のラグしかないのですが……)
 地面に生えている謎の女の子と、友人の彼氏に恋をする女の子の話。
 一人でいる草子と、人はたくさんいるけど一番欲しい人には触れられない萌子……というバランスは草子の隣に新しい男の子が生えたことで均衡が崩れてしまいますが、基本的には爽やかさのある作品です。
 人間関係であれこれ悩みはするわけですが、草子の「生きてるのー♪」という気楽な声とすっきりした笑顔が良いですね。枯れても違う草子がまた生えるのも、自然物の力強さを感じます。
 しかし草子、服が花びらということは首から下が茎、頭部がおしべやめしべということになるのでしょうか。キスをすれば受粉になるのだろうか。

●おねえちゃん
 加代ちゃんが可愛い。
 ちょっとダメな感じの、からっとした明るさのある女の人が好きなので、加代さんの朝急ぎながら喋っている顔を見るだけでにやける。こんな35歳大好きです。
 良い歳なのに独身で彼氏もいないし寝ぼける加代に対する「ああはなりたくない」というチナミの見下しは、同時に「このままだとああなる」という焦燥でもあるのでしょうかね。
 実際にはチナミの思っていた「ああ」と実際の加代は違う、というのも歳の差百合好き的にはツボるポイント。
 加代が35歳(厳密には「過ぎ」)、チナミが高校生ということは、チナミが生まれた時に加代は若くても17歳。回想シーンの時、加代は20歳ちょっとくらいでしょうか。そりゃ幼女がかんしゃく起こしても余裕の年齢ですね。
 作中でチナミの思うことは、チナミにとっては真剣そのもの。でも、幼い頃のチナミを知っている加代からすれば、幼女の頃にぐずって甘えていたのと同じ。
 加代にそれを見透かされた上で優しくいなされるのはどれだけ安らげることなのでしょうか。加代目線で未熟なチナミを愛でるのもよし、チナミ目線で加代に甘えるのも良し。二人の間に恋愛感情があるとは描かれていませんが、百合的にはそんなことを思ってしまいます。

●雨の日の国
 これは本書の中で一番百合感が強いです。とはいえ恋愛とはちょっと違うのですが。
 加也の部屋の先にお兄ちゃんの部屋がある、という構造なのですね。そういった家に詳しくなかったので、お兄ちゃんが入り込む理由が最初は分からずにちょっと混乱しました。
 作中に出てくるベルメールの作品はは金原ひとみ著「アッシュベイビー」の表紙にもなっているもので、「アッシュベイビー」で先に知っていたのでちょっと嬉しかったり。「雨の日の国」の初出が2000年、「アッシュベイビー」の出版が2004年なので、実際の順番は逆ですがね。

 加也の部屋は「女の子の世界」で、そこにいると久美はすごく楽しい。
 でも久美はそこを出てしまうし、加也も出てきてしまう。また戻りたいとは思うけど、女の子の世界=雨の日の国に行っても、また外へ出て行く日は来る。
 どうして出て行ってしまったのか、どうして雨の日の国に居続けることが出来ないのか、というのは最後のページにある通りです。

 加也の挑むような顔つきの色気が凄まじい。
 自信満々の、挑発的な加也につられるように久美も「いいよ」と言うわけですが、雨の日の国を出た外ではごく普通の羞恥心を持っています。
 女が主体の場所にいるのか男が主体の場所にいるのか、という違いによって気持ちに変化が生まれている、と私は感じました。
「バカ」という紙を入れる遊びについてはよく分からなかったです。加也の部屋に逃げ込むために必要な小道具だったのかなとも思いますし、男の世界では女は平和に生きられないよってことかなとも思います。
 人をひっかく遊びである「バカ」の紙を久美はやったことがあるから大したことはないと分かっている、でもやられると悲しい。
 やられると悲しい、ということを実感した久美は、しかしお兄ちゃんに身体を見せてひっかく。被害者の痛みを実感したからといって加害をやめるわけではない、という事なのかもしれないです。
 文脈的に、「人をひっかくのは楽しいけどひっかかれるのはつまらない」で良い気もします。

●アイスティー
 思春期に入り始めた男の子と女教師の話。
 といっても「ひと夏の思い出」にも満たないような淡さに満ちたお話でした。

 吊るされたブラジャーや腋から見える胸、「チン毛」発言に照れたりと性的ではあっても後ろ暗さのない甘さの後、「失恋しちゃったんだよねー」で甘さに酸味が加わる。
 甘酸っぱい雰囲気と、中学1年生の背伸びと成長を微笑ましく思う。もうそれだけで十分な感じでした。

●総評
 おかざき真里さんの著作は初めて読みましたが、「草子のこと」では爽やかな、「雨の日の国」ではちょっと濃厚な、女同士の関係が読めてとても嬉しかったです。
 刊行から10年ちょっとが経ってはいるものの、書き文字にちょっと古さがあるかな? という程度で、特に年代によるギャップもありませんでした。
 何より、絵が可愛い。鼻を省略されることが多いためか、綺麗より可愛いという印象の絵ですね。髪の毛の描き方も少女漫画らしく繊細でとても好み。
 もっと他の著作も読んでみたいところです。