トガビトノセンリツ 感想です。
一周目+暴露モードをクリアして、EXTRAは未プレイ。
プレイ時間はだいたい10時間くらい。ボイスがないのもあってだいぶコンパクト。
露悪デスゲーム好きとしてはかなり好き。とはいえ話の流れ自体は露悪に走りすぎず、ゲームそのものの嫌さと人間の業と気高さが程よいバランスなので個人的には不快感薄め。
デスゲームのルールもややめんどくさいけどメニューからいつでもチェックできるのでそこは安心できる。
多くを語りすぎないシナリオなので、想像力がかき立てられるか消化不良かは人による。話のオチ部分はしっかりしていたので私は前者。
難点を挙げるとしたら、グラフィックとSEが乏しいこと。
特にスチルや背景は異常に少なく、暗転や背景の変更がないまま進むシーンが多くて不満が残りました。前述のこともあり、想像力は豊かに保つ必要がありそう。
以下ネタバレありの感想など。
●シナリオ
デスゲームものだけど推理の重要度が低い、というのはちょっと面白い。
殺人が起こった場合の犯人当ては重要ではなく、役職上の殺人鬼を当てる必要があるゲームなので少し構造がねじれている。
作中では彩音先輩が死亡した時の征史郎の言い分がかなり正しくて、
・動機は考えない
・彩音先輩殺しの犯人=殺人鬼ではない
あたりが面白かった。
そういう面もあり、ミステリ要素は控えめ。難しくはないし、プレイヤーが解き明かす必要もない。
私は謎解きがかなり苦手なんだけど、彩音先輩殺しの犯人・革命後の殺人鬼は割とすぐにアタリがついた。そのへんの解き明かしを楽しむゲームではなく、叙情的なアドベンチャーゲームといった方が正しいと思う。
話がコンパクトなのもあり、コンセプトである「献身は呪いになる」が話の中で通底していたのが良かった。
特に革命後に出てくる「殺す方もつらい」は上記の言い換えとも考えられますね。部内での殺人は殺される側も納得していることが多く、暴露モードでは殺した側のさまざまな悔いが現れるので殺した側に同情してしまうこともある。
過去やバックボーンについては語られないことが多かった。
※EXTRAシナリオや過去作(鈍色のバタフライ)で語られている可能性は高いけど、ここでは作品単品の感想を書くよ
とはいえ、彩音―亮也の過去に何があったのかは匂わせられていたし、七緒が女=悪を嫌うことについてはその結果が大事なので事情はそんなに問題ではない。ここは各自採りたい説を採ればよい、という風に解釈しています。征史郎―エレナの過去も同様。
ただ吹奏楽部のやらかしについては触れてほしかったな〜〜なんとなく千鶴先生が何らかを扇動してそういうことになったイメージだけど、どうなんでしょうね。
選択肢にフラグの概念はなく、全部選択肢によってバッドエンドに直行するタイプ。
一応END1だけ死亡フラグから死亡までに少し間があるものの、一本道なのは変わりなし。
チャートがない作品なのでシンプルで楽とも言えるし、遊び甲斐がないとも言える。ここは人によってはマイナスに働くかもしれませんね。
嬉しかったのは、2023年の感覚でジェンダーやハラスメント的に引っかかる部分が少なかったこと。
登山中の胸ネタ・蓮とみことのキス・七緒まわり・彩音先輩などきわどさを感じることはあるものの、私はあまり気にならなかった。異性間でのハラスメントが少なかったからかな。
ハラスメント的に一番ひどいのは彩音先輩なんだけど、なんかそこまで……そもそもこの部活が存在するのは彩音先輩の存在ありきだしな……みたいな感情があって私は気になりませんでした。気になる人はいると思う。
●システム
セーブは潤沢。
私は基本的に全ての選択肢でセーブをしていくんだけど、一周目と暴露モードありの二周目でそれぞれセーブしてもまだまだ余白がある。
回想モードはないものの、一周目をクリアしてから「はじめから」を選ぶと、日にちによって選べる+セーブ領域が多いので、そのへんを活用すれば問題はなさそう。
ただセーブは「○日目」とセーブしたリアルタイムの日付と時間だけなので少し分かりにくい。セーブした瞬間のテキストが一行あると嬉しかったですね。
気になったのはSEがないこと。
具体的には、ボタンタップ時の決定・キャンセルと、スタート画面でのメニュー選択時の遷移音がない。
押せたのか押せなかったのかがイマイチ分からなくて不安になるので、これはあった方が嬉しかった。
特にスタード画面でのメニュー選択がスワイプなんですが、結構判定が厳しい感じで、画面を雑に撫でるとスワイプではなくタップとして処理されるっぽくてちょっと難儀した。
スチルも一覧がチェックできない……けどそもそものスチルが少ないから問題はないかな。(スチルが少ないことそのものの問題は後述)
既読スキップは快速。
選択肢を選んだ直後は既読スキップが効かない? のか、選択肢を選んですぐに既読スキップを押すと反映されず、そのまま手動で話を進めていくとシーンの切り替えまで既読シーンの既読スキップが無効になる症状にぶち当たった。
あとは既に選んだ選択肢は色が変わる・できれば死亡選択肢はマークがつくとかがあるともっと嬉しかったかな。
●グラフィック
10年以上前のゲームなんだけどそこまで古さは感じない。
画風が私好みだったこと、制服なので服装的に古さを感じる要素がなかったのは大きいかも。くるみ・悠・千鶴は私服っちゃ私服だけど、子ども・先生という属性を強化する服装なのでトレンドとかそんなに関係ないもんね。
スチルや背景も不満はない。崩れないし構図も色々あるしシナリオと破綻もしていない。
ただ、スチルがとにかく少なすぎる!!!!
背景も少ない! 雑居房がないのはかなり気になった。個人的には脱衣所兼洗面所(キッチン化差分あり)も欲しい。6日目、七緒に鎖で繋がれたシーンは雑居房での出来事なのに背景がずっとホールなのが嫌だった。
スチルもね〜〜〜明らかに今! ってシーンで暗転しっぱなしなので気になった。
元がフィーチャーフォン向けゲームで、説教部屋でも容量ギリギリという話もあったのでスチルは限界だったんだろうな、とは思っている。ただ、2023年のスマホで出来るアドベンチャーゲームとして見ると全然足りね〜〜〜とは思っちゃいますね。絵が好きだからなおさら寂しい。
欲しいスチルの話でもしようかな♪
・1日目、取り囲まれるシーン(並ぶ・暴れるの選択肢が出るシーン)
・3日目、壁越しに会話する和馬と征史郎
・4日目、悠がくるみを切りつけたシーン
・4日目、看守が全員処刑されるバッドエンドで蓮が目を開けた瞬間飛び込んでくる亮也のアップ&看守のプレート
・各キャラの死に際
・説教部屋でのデフォルメされた千鶴先生(とろりんの巣のとろりんみたいな感じで)
↑このへん絶対欲しいじゃん
死に際は千鶴(偽)・悠とかの焼死体、7日目の蓮(偽)あたりは厳しいと思うんだけど、アップにしたり引いたりシルエットだけにしたりしてなんとか……なんとかしてほしい。スチルじゃなくてカットインだけでもいいから! 頼む!
あとはキャラクター単体のスチルもみこと・蓮だけなのが寂しい。一応メインヒロイン的なポジションがこの二人だから、という取捨は理解できるんだけど、エレナも欲しかったな〜。
ただエレナはエレナ単体でスチルにしたいシーンが特に思い当たらないのでちょっと難しいのかも。
そういえばみことの立ち絵、明らかにナイフを持つのにちょうどいい手をしているのにそういう差分なかったですね。これも欲しかったな〜〜。
↑この右手、めちゃくちゃ逆手ナイフ持ちがしやすそう
スチル追加したリニューアル版とか出てほしい。2,000円くらいなら買うよ。
●キャラクター雑感
(表面的な)死亡順から。カッコ内はプリズナーゲーム内での役職。
○千鶴先生(監獄長)
諸悪の根源レディ。
財源とかペットたちとかやや超人的な存在ではあるけど、まったくありえないとまではいかず……という絶妙なポジションだったと思う。変に具体的なバックボーンがつけられて、しかもそれが同情の余地があるよりは私は好き。
最期も好きなんですよね〜〜〜本当に面白半分に死んだのかなんらかの感情が発生して死にたくなって死んだのかも分からないけど、得体の知れない何かのまま死んだのが気持ち悪くて最高。
このへんは価値観によっては胸糞エンドに感じる方もいそう。私はフィクションだから巨悪が満足したまま死ぬのはOKです。フィクションだから!!
○彩音先輩(看守)
妙にバランスが良くて面白い人だった。
美人で記憶力と音感が良いお嬢様で、電波でハラスメントもするけど、かといって浮世離れもしすぎないところが面白い。
プリズナーゲームの攻略として役に立ちにくいキャラクターの定番として、他キャラのメンタルの安定を図っている人でもある。
個人的には顔がめちゃくちゃ好きだったのでもっと見たかったな〜。みんなでタブレットを見るスチルで泣きぼくろに気付いた。演奏シーンとか死体とか見たかったですね。
○悠(革命家)
一番気持ちが定まらなかった。
やや人格が乖離してるっぽい雰囲気はあるんだけど、具体的にどういう事情なのかがハッキリしなかったので気になっている。
蓮の危機に際して人格交代している……という解釈はしているものの、だとしたら何でもない合宿のはずなのにカッターを仕込んでいるのが納得できない。
と思ったけど、別に合宿だからカッターを仕込んだんじゃなくて普段からカッターを仕込んでたと思った方が良さそう。
口ぶり的に、蓮の義父・悠の実父が蓮に当たりが強かった(おそらく何らかの虐待)のは日常的なことみたいですね。
それを受けて反撃の手段を整えていた悠が、ある程度の殺意なり計画性なりを持って父を殺した、みたいな感じかな。
で、殺害が成功体験になってしまったのでカッターを携行している……というストーリーでよさそう。私の中ではこれでいきます。
凶行時の悠の「結婚できる」については引き続き、錯乱状態での言動で悠の本心ではないものと解釈しておきたいです。血が繋がっていなくても近親婚は嫌いなので……。
○征史郎(無実→看守)
一周目が終わった時点では「和馬のメンタルケア要因・ゲーム内容の整理役」くらいのシステム的な認識しか出来ていなかったけど、暴露モードで明かされるエレナへの恋情が切なくて一気に好きになった。
だからこそエレナとの過去に何があったかは本編で知りたかった……!!!! EXTRAにあるんですか!?
考え方は「ゲームに乗りつつ解法を探す」感じなので、私目線だと一番共感しやすい。
何気に暴露モードでのモノローグがエレナ絡みくらいしかなく、思考はかなりストレートに周囲に開示している。いい男だよ本当に……。
○みこと(殺人鬼→看守)
大変なお方。
みこと周りのシナリオは逆恨みと勘違いで話が進む、とも言えるんだけど、序盤に人の良さと和馬への好意がむき出しになっているので、その後の豹変も恐れつつ心配できる良い人。
勘違いではあるんだけど思考の筋道がかなりしっかりしていて分かりやすい。作品全体を通してだけど、人の偏った思考とかも「そうはならんだろ」じゃなくて「こいつならそうなるよな」で納得できる感じがあるので自然で良かった。
和馬への好感度が高→低(高くもある)→高と進むので、高い状態で安定した直後に殺されるのはかなり失意を感じた。もっと一緒にいたかった、と思えるのは間違いなく良いキャラだと思います。
○亮也(看守→脱獄囚)
顔が良くて感動がない人。
感情はあるけど表に出ない、ということで、そのへんを打破するために彩音先輩と色々(おそらく恋愛的なこと)をするも失敗、それが負い目になっている……という感じかな。
みことを好き、というのは本人の口から出るまで全然分かんなかったから急でびっくりした! けど亮也の性質を考えるとそれで正しいのか。
4日目朝の動きだったり、それ以降のモノローグがとてもつらい。
一番好きなみことのために大事な彩音先輩を殺したのに、結局それを無駄にしてしまったことへの悔恨とかが痛々しい。それでも和馬を殺そうとして、でもそれはその時点でのみことの願いですらなくて、更に殺すこともできなくて……と、かなり空回っていて苦しい感じ。
蓮に脱獄のキーを渡したのは、あの場にいた中で蓮だけが看守側で、七緒の暗躍があったとしても夜には自由に動けると判断したからかな。
あの状態で七緒にキーを渡しても意味ないもんな。
殺したし殺された人で、罪と罰が釣り合っているとも言えるけどやっぱりモノローグを知っている身としては同情しちゃう気持ちはある。
○エレナ(看守→殺人鬼)
ゲームの攻略的にも他のキャラクターとの精神や感情のつながり的にも少し浮いた印象がある。
いや感情面では 征史郎→エレナ→亮也→みこと の片思い連鎖はあるし、唯一七緒の秘密に気付いていた人でもあるんだけど、そのへんの思考を開示しないので物語上あまり影響がなかったな〜と思っている。
割と騒ぎがちというか、あまり物語上の貢献はないイメージではあるんだけど、それはそうと嫌いにはなれない感じだった。そういう意味では不思議な人。
これはシナリオへの不満ですが、バックボーンが何かある感じはしつつ一切明かされなかったのは気になる。
公式HPでバックストーリーが公開されている+EXTRAを読めばなんか分かるっぽいんだけど、私はゲームのパッケージひとつで完結している方が好きなのでそこは不満。それはそうと、この記事を書き終えたらHPで公開されているものは読みたいと思います。キメキメッ☆
○七緒(詐欺師→看守)
わたしになってからは大迷惑だった人。
女性嫌悪の中に自分の悪心を全部押し込めちゃったんだろうな〜という印象。女性嫌悪と悪心は別ものだったのにね!
暴露モードで伏線の細やかさに気付いたときは超気持ちよかった。
登山中の胸ネタで自分の胸を見る・トイレに並んでいる時に必死こきまくる・その後も割とすぐにトイレに行っている・なぜか倉庫にいたのはナプキン探していたから など、うお〜〜なるほど!!という感じがしてよかった。
2日目で生理が来なかったら悪心をもうちょっと留めていられたのかもしれませんね。
彼女も悠・みことと同じく乖離気味っちゃそうなんだけど、悠が無意識・みことが意識的で不随意だとしたら、七緒は随意っぽい人格の切り替えをしている気がする。眼鏡のオンオフもあるしね。
作中の凶行時にシラフだったとも言えるので、そういう意味ではしっかり悪い子。
○くるみ(看守→詐欺師)
ここからは生存者ゾーン。
小学五年生にしては頭の回転が良い、というのが強調されていたのでなんかあるのかと身構えていたけど特になんもなかった。
暴露モードのエンディングでは15歳かな?
デスゲームに巻き込まれて精神病棟に入院、その後各地を転々としつつ千鶴を追う……というなんとも大変な人生を送っている方ではあるものの、家庭環境が完全に終わっちゃっているので、人生がメチャクチャになって可哀想みたいな気持ちは意外と湧かない。湧いた方がいいよ。
「信じたい」と思った時に自らストッパーをかけるところに彼女の悲しさがあってとても好きです。
○蓮(脱獄囚→看守)
脱獄囚だったのに脱獄できなくて看守になってから脱獄できた人。すごいぜ!
イラストだとセーターが長いせいか、ダックスフントみたいでかわいい。
なんか最終的にメインヒロイン格になったのでびっくりした。
しかしよく考えたら七緒・みことは過去の繋がりの女性だから、過去の繋がりがない蓮が最後に来てくれたのは和馬にとっても救いだったのかな〜と思っている。
恋愛的にどうなのかはよく分からないけど、別に描かれたエンディングの先に恋愛があるとは明示されていないので、そこは自由な気持ちでいたいと思います。
○和馬(看守→無実)
本当に大変でしたね……。
頑なにビジュアルが出ない・その割にはコワモテが強調される あたりで何か裏があるのでは!? と疑ったけど何もなくてよかったです。
バックボーンが濃いめの作りなので、デスゲーム作品の主人公がやりがちなゲームから逃げる姿勢を取っても納得感が強い。
過去についてもうっすい線を重ねていくように形作られていくようで好ましかった。
エンディング後は4年間のデスゲーム参加でズタボロ(指ないのに指輪はあるし)だし4年分の調書は必要だし多少の罪は課されるだろうし散々ではあるけど、それでも生きていて良かったと思える人生を歩めたらいいな〜と思っています。好きだから。
*
プレイ時間は短かったはずなのに、クリアしてからもじわっと心に残っている。
ケムコのゲームはレイジングループ・D.M.L.C.の二作を既にプレイしていたけど、プレイ直後の感触で言うと本作が一番好き。
キャラクターが好きなのでEXTRAも触れてみたいと思います。