るーむ私記

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【感想】新井理恵「机上意思マスター」


 漫画「机上意思マスター」(新井理恵)の感想です。

 コマの切り抜きをTwitterで見かけたことがあり長らく気になっていたので満を持して購入。
 1話を読んだ時点であまり好きじゃないな~とは思ったものの、全巻購入した後だったので最後までは読みました。

 感想としては、見下している人間のレベルまで落ちてから攻撃しているような作品で気分が悪い。
 時代によって受け入れにくくなってしまった表現があるのはもちろん、それ以前の問題として私には受け入れにくかったです。

 以下、否定的な感情が強い感想の詳細。


 イマイチに感じた要素はいくつかある。

●沢村さんのせいで急激に下がったリアリティライン
●時代遅れな表現が多い
●男性嫌悪がもたらす強烈な攻撃性
●無自覚だと感じられる人間関係のいびつさ

●沢村さんのせいで急激に下がったリアリティライン


 まず本作がどういう話かを軽く整理すると、

・主人公:華蘭は成績優秀で美しい女子高生であり、腐女子であり、同人活動をしている
・ある日、華蘭は不思議なペンを手に入れ、推しCP(※時代柄この言葉は出てこない)を描いたところ、推しCPが実体化する
・しかし、実体化した彼らは、原作や同人作品の中のイメージとはまったく異なる性格をしている
・華蘭は彼らとともに同居し、のちに同じ学校にも編入する
・彼らにまつわる様々な問題が起こり、友人らも含め問題解決にあたる

 ざっくりこういう感じ。

 本作は最大のファンタジーとして「描いたものが実体化するペン」が存在するけど、それ以外はある程度リアルに描こうとしている気概を感じる。
「主人公の両親が海外にいて主人公は戸建てに一人暮らし」みたいな、現実にはあまりない設定についても、両親が○○だから主人公は日本に残っている…という理屈づけがされていてそこは良いと思う。

 リアリティの演出として、作品1話は序盤から華蘭に都合の悪い展開(元カレまわり)が続くので私は「漫画にありがちな設定を、リアリティラインを落とさずに描写していく作品」として受け取っていた。実体化した二人の戸籍をどうするかと華蘭が調べているシーンとかもあったので、ご都合主義はやらないものだと思っていた。
 ただそれは冒頭だけで、全然そんなことはなかったのでガッカリした。
 今にして思えば100万円があっさり手に入った時点でその辺は怪しかったんだよな…。

 沢村さんがご都合存在として登場してしまったのが悪かったな~~と思っている。
 戸籍問題・学校で起こる諸問題の解決をほぼ沢村さんがやってくれたので、当初期待していたような話が一切読めなくなってしまった。
 それでいて細部にはご都合主義を認めない描写がされるので、作品のスタンスが最後まで理解できずにストレスが溜まった。

●時代遅れな表現が多い


 本作は2009年~2011年に連載された作品で、私がこれを読んだのが2022年なので時代遅れに感じる表現は多い。
 今は「ホモ」は笑える言葉じゃないし「ストーカー」はもっと深刻なので強めの違和感がある。まあこれは連載当時なら今ほどの違和感じゃなかったとは思うけど、少なくとも今(2022年)の感覚で読むと気分が悪い。

 あとは未成年と推定される華蘭がR18同人を描いている件について一切何の言及もないことも気になる。
 いや華蘭の年齢が「18歳未満」とも描いている同人誌が「R18」とも明言がなかった気がするから今のままでも別にいいのか? そんなエロゲの「学園」みたいな処理を……?

 上記のリアリティラインの話にも関連するけど、本作である程度リアリティのある(=主人公に都合の悪い)話を展開したかったんなら、同人の是非や未成年とR18作品のゾーニングとか、同人関係の話題だった方が良かったんじゃないか? その方が私は興味が持てたし天之川きらり関連のエピソードとも繋がりやすかった気がする。
 あとは華蘭が自分が創作内で描いているCPに対して、攻めを棒扱いしている言動が多かったのも不快。このへんも言及があった方が良かったと思っている。

 根本的に私はこの作品が行う問題提起を同人活動まわりが主だと思っていたけど、実際には華蘭を代弁者として女子高生同人作家腐女子(家庭環境が複雑)の諸問題提起になっていたので、根本的なミスマッチがあったから否定的な気持ちになったんだと思う。

 あとこれは本作の評価に関わらない話だけど、性加害者を「レイパー」って呼ぶのは2022年には廃れた言葉だな~と思った。単純に性加害が性交渉だけでなくなった(強制性交罪などの法改正があった)ことも関係しているのだろうか。

●男性嫌悪がもたらす強烈な攻撃性


 これが一番イヤだった。

 華蘭は見た目の大人しさとは裏腹の竹を割ったような(女らしくない・男らしいとも換言できる)性格の持ち主で、見た目通りの女性性を求める男性の期待に応えられずに双方失望して別れたことがあったり、男性から品評されることへの不快感を抱いている。

 ここまでは良いんですよ。華蘭にも人間的な好意は持てる。
 上記の経験を持っているからこそ華蘭が男性に対してある種バイアスのかかった物言いをするのも分かるし、作中では男性が華蘭やその周辺の人間に何か言う→華蘭が反撃する→相手が言葉に詰まる(いわゆる「論破された」状態になる)という流れで、男性からの攻撃を受けない限り華蘭は反撃しない(華蘭が積極的に男性性や男性の否定はしていない)ので、そこもまあ良い。この論破の流れが多すぎてちょっとうんざりはするけど。

 ただ、反撃とはいえ同レベルの下品な攻撃を華蘭らが行っていることは気になった。
 特にひどいのは3巻に収録の文化祭まわり。

・女子が文化祭の出し物として喫茶店を提案する
・一部の男子が「喫茶店は男子の負担が重い、女子が楽をしようとしている」と陰口を叩く
・女子が「準備段階から男女の役割を入れ替えよう」と提案する

 という流れで、思ったよりも「女子の役割」って大変だよね、みたいな話の中で女子(男子の役割)が、男子(女子の役割)に対して悪口を言うシーンが見ていられないほど痛々しい。
 もちろん女子は「男子はこういうことを言う」現場を実際に見ているからやり返しているに過ぎないんだけど、根本的にやられたらやり返す考えは正しくないと思うので、もっと別の方法があるべきだと思った。

 特にこのシーンの後で、指を切った男子に対して女子が手当をするシーンがあり、男子は手当をした女子にときめく→優しさの発露ではなく衛生を考えてのことだった というオチがつく。
 こういう風に「本当の男子は○○しないけど、私は男子は○○すべきだと思うからそうする」みたいな説明をした上で男子(女子の役割)に優しくする→男子何も言い返せず完敗 とした方が見ていてスッキリするのにな~~と思った。
 基本的に男子が悪い、とする世界観なのでそこには異論を挟まないけど、男子が悪くて女子は良い、とする考えを基本にするなら、女子を同レベルまで落とすような表現は悪手だった気がする。

 そもそも華蘭も自ら描いているCPの攻めを棒扱いするなど、作中の男性と似たような考えを持っていた(実体化した攻めに対する呼び名もモロ「チンポ」だし)ので、そこの内省もないのに反撃するしそれが作中で正しいとされているのも違和感が強い。

●無自覚だと感じられる人間関係のいびつさ

 無自覚なのは作者です。

 本作の人間関係って結構どうかしていて、華蘭からみて非常に都合の良い居心地の良い空間が出来上がっていると思っている。
 言ってしまえば逆ハーなんですよね。コミュニティ内で華蘭が絡む恋愛が発生していないけど、華蘭からすると自分が絡む恋愛が発生しない方が都合が良いのでかなりのご都合空間と言える。

 もともとこの作品に好意を持っていないから気になった側面はあると思う。


 華蘭の両親まわりに代表される、子どもの手では割とどうしようもない問題を解決するのではなく受け流すような雰囲気は好きだったけど、そのくせ天之川関係は落とすところまで落とすという執着を感じて気持ち悪かった。
 もちろん前提として天之川がそうされて仕方ないレベルの迷惑な人間だからなんだけど、そういう人間として描くことそのものに性格の悪さを感じる。

 あとは華蘭の元カレについても「なんでそんな男と付き合ったのか」がイマイチ理解できないとか色々あるけどめんどくさくなったので割愛。

 好みに合わなかった作品ってページを閉じたら忘れることにしているんだけど、あまりにも合わな過ぎて驚いた。