るーむ私記

プライベーーートなブログです

露出変態邂逅録

屋外で、本来なら見せてはいけない部分を露出している人間を2回見たことがある。

「春はおかしな人が増える」とはよく言うが、私が奴らと出会ったのは秋と冬だった。まず脱がないで欲しいし、いずれも東北地方で出会った者どもなので、人間の性欲の度し難さを感じる。

ここに彼らの罪を晒します。

 

1回目:家の前はギルティ

奴は2月に現れた。

私は駅から徒歩5分くらいのアパートに住んでいた。
近所のスーパーやらで買い物をしてから帰宅するのが常で、その日もパンパンの買い物袋を両手に下げつつ家に向かっていた。

アパートの前にある歩道は狭いのに、駅が近いせいで車や人の通りが多い。たまに自転車で熱唱しながら通り過ぎる方もいる。
確か17時前くらいだったと思う。その時は車はまばらで歩行者は私だけ、代わりに私の住むアパートの向かいに誰かがいるのが見えた。

彼は足を止めていた。手は動いている。
スマホを持つには位置が低くないか? 手はやけに速く動いていて、

ていうか全裸じゃねえか。

アパートの前で、全裸で、車道に向けて陰茎をいじり続ける男がそこにいた。

基本的に露出狂に対して反応を見せるのは間違っている。私はおおむね無表情を保ちつつ、彼の前を通りすぎる数秒の間に通報について考えた。

通報:すべきだけどできるかどうかは別

市民として通報すべきだとは思っていた。
しかし、私は両手に荷物を持っていて、スマホはカバンの中にある。荷物を置く→スマホを出す→110番する→通話が終わるまでの間、この変態がその場で大人しくしてくれる保証はない。
スマホを奪われてぶん投げられてスマホを破損するのが一番マシで、性犯罪の被害に遭う・狭い道なので揉み合ううちに車道に押し出され轢き殺されるなどの可能性もある。精神でも肉体でも後遺障害を負うのはだいぶイヤだ。

というわけで私は彼をスルーし帰宅した。
家事をしながら通報について考えた。まる1日は悩んだが、逮捕や何かに繋がることはないと思って通報はしなかった。
今思うと逮捕に繋がらなくとも通報する意義はある。単純にそこに不審者がいたのだから、それは住民のために注意喚起されるべきだったと思う。

翌日は雪が降った。
さらにその翌日、該当の変態が立っていたアパートの外壁に「不審者注意」の貼り紙がされていた。
誰かが通報したんだからいいだろうとは思いつつ、自分が通報しなかったことに今でも罪悪感を覚える。

2回目:せめてトイレとかにしようよ

奴は10月に現れた。

1回目の変態と出会ってから数年が経ち、私は通報しなかった後悔を燻らせていた。次に変態に遭ったら通報する、いやそもそも繁華街も遠い場所で生きているんだし出会うこともないかと思いながら平和に暮らしていた金曜日の18時、私は無人駅で人と待ち合わせをしていた。

その無人駅には待合室があり、10人くらいが座れるベンチがコの字型に備えられている。私と男性はほぼ向かい合う形で座っており、私と彼はそれぞれ異なるソシャゲを嗜んでいたのだが、スマホをカバンにしまった彼は胡乱な動作を開始した。

最初はポケットの中で小銭でもいじっているのかと思った。
しかしそれならジャケットの裾を引っ張って股間部を隠す必要はない。そもそも聞こえるのは小銭のぶつかる音ではなくて一定のリズムで布が擦れる音だ。

あまり凝視してもまずいので、私はスマホで彼の写真を撮り、その写真で彼の手つきを検分した。
彼の履いているズボンは黒無地だが、手の影に隠れて赤みがかった何かが見えた。急いで撮影した画像では判断が難しいが、私には皮膚のように見えた。皺の寄った、弛みのある皮膚。

睾丸じゃん。

彼は変態だ。通報しよう。

駅や電車でのトラブルとなると駅員を呼ぶらしいが、ここは無人駅で駅員がいない。
110番するか? 大袈裟ではないか? 彼は外で自慰行為に挑んでいるが人に見せつける意図はなさそうだ、通報するにしても何と言えばいいんだ?
などと悩んでいると、彼はカバンの中からティッシュを出して股間

私は警察に通報した。

通報:事後ティッシュって押収品なんですね

駅舎を出て110番をし、私は「露出狂がいる」と通報した。
厳密には彼は屋外で自慰行為をしているだけで露出狂ではないのだけど「駅で自慰行為をしている方がいる」と上手く伝えられる自信がなかったのでパワーワードに頼った。意図的に言葉を盛っているので良くないことだ。

「いつ頃の話ですか」「今まさにって感じです」「それをしている方は」「多分まだいます」「その男は…あっ男性ですよね。どんな服装の方ですか」
服装は事細かに聞かれる。帽子やひげの有無、衣服はトップス・ボトムス・靴の形から色まで聞かれる。
全部ちゃんと答えた方がいいと思って一度駅の待合室に戻って変態の容姿を確認したりもしたが、電話口で「無理をしないで」と言われた。確かにそう。

電話は10分くらいで終わった。
この駅に停まる電車は1時間に1本あるかないかで、次の電車が来るまでにはだいぶ時間がある。彼が自慰を終えて電車に乗るにしても、まだ猶予はあるはずだ。
そして田舎ゆえに1つ先の駅まで歩いて行くにも1時間はかかるしタクシーも呼ばなきゃ絶対に来ない。変態に逃げられる心配はあまりなく、一応駅で人の出入りはあるので変態に襲撃されても5分以内に助けは入るだろうことが私を安心させていた。
いや安心はしていない。ストレスで胃が痛すぎる。

警官が来るまでの15分は長かった。
襲撃されても大きな被害を受ける可能性は低そうだが、殺される可能性はゼロではない。死にたくないな~と思っていたらパトカーが2台到着して、彼らはダッシュで駅の待合室に詰めかけた。

そりゃそうなんだけど、被疑者の確保が最優先なんだな。
私は警官を追って待合室に行き、自分が通報したと名乗り出た。とりあえず被疑者を何とかするのが先ということで、私は近くで待機を言い渡された。

物陰に隠れて警官と被疑者の動向を追う。
被疑者は両脇を警官に固められ、腰あたりを掴まれて、手は背中で束ねられて、ほぼ身動きが効かない状況でパトカーまで連れられていた。 眺めていると被疑者と目が合う。お前だな?と訊かれている気がして恐ろしい。 警官が持っていたビニール袋にティッシュを入れているのが見え、私は自分の想像が確かだったことを知って不愉快になった。

覗き見しすぎて警官に「もうちょっと隠れていただいて…」と言われるなどのほっこりエピソードを経て、私も取り調べを受ける。
撮った写真を見せ、なぜ不審に思ったのか、何を見たのかなどを訊かれる。
「上下にしごく動きだったんですね」「上下というか先端を……まあ、ソレの時の動きです」みたいな歯切れの悪い聴取をし、待合室に行って被疑者と自分の座っていた位置を指して写真を撮る。
周囲に人がいたのでやりづらかったです。警官に絡むな。「ここに!? ここに悪い人が座ってたの!?」ってはしゃいでいる人がいてウケた。おだつな。

遅れてやって来た3台目のパトカーに乗って私と年齢などが近い警官が現れ、更に具体的に聴取を受ける。「何が見えましたか」「モノ自体は手と服でほぼ見えていないです」「具体的にどの部位が見えましたか、サオは」「それはあんまり」「玉は」「見えました」「片玉が見えたんですね」「両方見えました」「両方!?」「真正面じゃなくて斜めの位置だったので、角度的に玉のようなものが、こう……」「玉のようなものですね」「まず玉だとは思うんですが」などの心温まる交流を経て、警官に連絡先を渡して帰ってよいことになる。

何かあれば連絡するかもと言われて数年、何も連絡はない。
そういえば被害届は出していないけど変態はどういう処理を受けたんだろう。見てしまったけど見せつける意図はなかったっぽいので、迷惑禁止条例あたりに引っかかったのか? 無罪放免の可能性もゼロではない。
胃痛はその後20時間続いた。

まとめ:リビドーの器は満たせない

誰かのリビドーが社会的に許されないことは悲しいことだ。
マジョリティに属する欲望を持つ人と比べ、欲望の発散に質的・量的な制約がかけられることはとても苦しいことだろう。
性の多様性が謳われて久しいが、全存在の欲望を真に救うすべは無い。誰もが自分のリビドーの器を過不足なく満たせたらどれだけいいかと思うが、その過程で欲望同士は衝突し、現実に被害者が発生する可能性が高い。

法益保護主義のもと成り立つ社会で生きる私は、彼らが変態行為によってしか己を満たせないのなら、彼らを餓死させるほかない。
これからも変態を見たら絶対に通報する。衆生済度の道は遠い。