ホラーがそんなに得意ではなく敬遠していたけどセールでかなり安くなっていたのにつられて買った、という経緯なので、ホラーの勘所や定番についてはあまり理解がないです。
ざっくりした感想としては、かなり面白かったから怪異・怨念あたりにロマンを感じるならプレイしてもいいと思う。
ただプレイ時間が短いのでフルプライスで買うと物足りない気持ちはあるかも…ゲーム面でもユーザビリティが特別高いわけではないので、値段相応のボリュームがあってシステムに悩まずプレイしたいなら難が出そう。逆に、ホラーゲーのシナリオやグラフィック的な質を重視したいなら間違いなく買ったほうがいい。
○システム
DRPG+探索+ADV。探索の要素が一番強いんじゃないだろうか。
DPRGパートでは主人公の位置によって視界の感じが変わるので、十字路は戸惑うこともある。一応左上にミニマップが表示はされるけど、自分のいる場所+四方くらいしか見えないこと、拡大できないことなどがあり便利ではない。
とはいえホラーゲーは不便なくらいがいいと聞いたこともあるのでこういうものなのかもしれない…どうなんでしょうね。
○音楽
探索中はほぼ自然音、九条館などシナリオパートはBGMがある感じ。
九条館のテーマ的な音楽を聴く時間が一番長いと思うけど、モダンな雰囲気に合っていて良い。
悲鳴SEもかなり種類があり、特定の誰かが出している悲鳴の時はちゃんとその声になっているので違和感もない。あとは金属製の扉が開く音、学校の階段を上る時の音なんかも気持ち悪くてかなり良い。
個人的には遊園地などの「ポップなところが逆に怖い」が好きなので、そういう音楽があったらもっと嬉しかった。けど別にマイナス要素ではないです。
以下ネタバレ
音楽で一番好きなのは5章の観音兵で流れ続ける軍歌。ぼやけたような歌声が気持ち悪くていい。
あとは4章のチャイム音も違和感があっていい。単体で聞いたらチャイムだと分からなそうな音だけど、ずう先生の喋り方の間延びと合っているし演出で分かるのでそこが良い。
6章では階段での行き来が多いからドアの開閉音をひんぱんに聞くことになり、「悲鳴みたいな音だな…」と思っていたらその通りのモノローグが入ったので面白かったです。
○シナリオ(全体を通して)
基本的にシナリオひとつひとつがとても良かった。怖さのベクトルが違うし、それでいて本筋(と思われていた)仏像の件への話題スライドも自然。ラストの百鬼夜行以外の伏線はほぼ回収されていたのはお見事の一言。
特に良かったのは、作品全体を通して本筋ではない部分は明言されず察することで理解していくようになっているところ。
具体的には、「2章の裏切った警察はおそらく真下の上司」「3章で出てきた謎の自殺体は聖子の婚約者」「6章でS子さんが受けた仕打ち」あたりが、ほぼ誰でも事情を察せるレベルであからさまではあるものの、ハッキリと「こういうことがあったんだろう」とは言われていないのが好き。
それでいて5章ラストのメリイによる説明で「印人が外部の人間と関わっちゃいけないのは嘘」と言われたり、本編に関わる部分はあいまいにしないで明確なところが助かる。なので察しが悪い人でも本編の筋についてはほぼ間違いなく理解できるようになっているのが親切で好き。
その上で気になることとしては、本作全体を通して男性と女性の扱いに差があったことは気になっている。
男尊女卑というわけではないのは分かっているけど、女性のお色気イラストが多いのに対して男性はスチルそのものがほぼない。もちろん全員を平等にする必要はないんだけど、有意に偏っているのは気になる。
1章花彦くんでの萌については事情が事情だから分かるんだけど、4章・6章でそれぞれきわどいイラストが出るまどかさんについてはあまり理解できない。
6章はS子が取り憑いた結果みたいなもので、取り憑くなら同性だろうということも含めて妥当なのであまり気にならないけど、4章のイラストにはあまり意味を感じていない。
服を脱がされる まではいいとしてそこが女性である意味がない。
もちろんまどかさんが女性であることで5章バトルで神楽鈴が使えて観音兵を撃退できるんだけど、大門さんやバンシーが女性・まどかさん男性でも5章は成立する内容なのでそれでも良かったんじゃないのとは思う。
性的被害に遭うのが女性だけという向きがあるのを気にしているんだと思う。花彦くんは男性だけど外見上は女性だしね…。
あとは死ぬモブが男ばかり(1章警備員、2章自殺者)だったのでそこもなんかなあ、という印象。続編でも男キャラが出てきたら死ぬモブか…と思ってしまいそうでちょっと気になる。
とはいえコンシューマゲーはどちらかといえば男性プレイヤーを想定してゲームが作られることが多いので、どちらでもいい局面なら女性にする、というのはおかしい選択でもないと思う。あくまで私が過剰反応しているだけというか。
あとは性的被害に遭う話はいくつか出てくるけど、それはそれとして作中人物が誰かに対してハラスメントを働くようなことはほぼ無かったのでそこは素直に良いポイントだと思う。
以下、各章と各印人についての感想。
○1章 花彦くん
割とチュートリアル的な感じで話運びはかなり親切。初見時はただのご都合だと思っていた、2階に行こうとすると蛇に阻まれるのも4章で活きてくるのは良いポイント。
花彦くん、母親との関係は良さそうだったのに校長のせいで大人全体を嫌うようになっていてかわいそうだな…と思った。虐待については「愛の鞭」という言い方で性的虐待か? と感じたけど特に明言はなかった…かな? 6章みたいな明らかにそうと分かる描写もなかったと思うので、性的なものはない虐待だった可能性もありますね。どっちにせよ虐待だよ!
・印人
萌ちゃん、つかささん、真下さん。
真下さんは大人だからほぼ出番なし。私は萌→(真下さん合流のため一度戻る)→つかささんの順で同行してもらい、バトルはつかささんと。
二人共性格もユニークだし可愛いところと可愛いだけじゃないところがあるのが良い。シルシ進行したつかささんが、吊るされている萌ちゃんを見て笑うのがなんか好き。明らかに場違いなことをしてしまう恐怖みたいなものがある気がする。
○2章 森のシミ男
シナリオがあまり理解できなかったところはある。
理解できない怪異としてはずう先生もそうではあるものの、ずう先生はどこが理解できないかは分かるんですよね。シミ男はなんか…何もかもが分からなくてどこがわからないと言えばいいのかあまり分からない。
とはいえホラー演出がとてもよく、山小屋の中にいると外から絶えずノックされるところ・藪を調べると一瞬だけ浮かび上がる顔、明らかに異常な死体など、探索中の恐怖はトップクラス。
・印人
クリスティ、翔、真下さん。
順番は翔→クリスティ→真下さん。破壊エンドは翔。
割と共感しやすい印人たちで、翔・クリスティは人間らしさが強い2人だし、真下さんもただ乱暴なだけじゃないウェットな部分が見えるのは良いところだと思う。かなりバランスよく好きになった。
翔が本章のみで退場なので、プレイスタイルによっては翔のことをほとんど知らないままお別れすることになっちゃうのは寂しいなあと思います。
○3章 くちゃら花嫁
苦手なシナリオではあるんだけど、クオリティは高いので嫌いではない。
あまり得意ではない探索が少ないのも助かるところ。とはいえそのぶん本章は短く感じられるので、そこはあまり良い部分ではないかもしれない。私としては助かりますが……。
ところでここで出てくる聖子さんの婚約者死体、服のカラーリングのせいで一瞬真下さんが出たのかと思ってめちゃくちゃ怯えました。そんなわけないだろ。
1章・2章では出なかった血の手形が出るなど、定番的なホラー演出が多くて楽しい。
最後の電話が鳴る演出、破壊→救済とエンディングを進めていたらかなりびっくりするだろうなーと思いました。
個人的にはくちゃら花嫁の顔が最ホラー。目がでかいのが怖くてね…花彦くんはそんなに怖くないんだけども……。
・印人
クリスティ、すず、栄太。すずだけ連れて行った。
栄太を連れて行きにくい+栄太がこの章限りの出番なのであまりスポットが当たらないのが寂しいところ。
見るからにオタクで中身のオタクな栄太だけど、他害行為がないところに好感が持てる。すずちゃんについても変な気持ちはないみたいだし…破壊ルートでの悲嘆に暮れっぷりもとても好き。
すずちゃんは素直に良い子。クリスティ・栄太は人物の良い面も悪い面も描かれているのに対し、すずちゃんだけ悪い面というか欠点的な部分が見えてこなかったので、好感は高いんだけど思い入れはそんなにない。
○4章 ずう先生
地下道、マンホール、水路、あたりが舞台になるかと思いきや特に関係なくH小学校なのが面白かった。そんなことあるんだ。
1章破壊ルートだったら4章かなり気分悪くなりそうだな〜と思いました。
恐怖がグロ方面に寄っていて、これってこんなに出していいんだ? と思うようなものもあった。警備員のバラバラ死体とか動物の首+床に散乱する臓器とか。DL版だとCEROどのくらいかわからないけどZ(R18)ではなかったはず。これだけ色々出ていてもR18にならないのは驚き。
テストの問題文が壊れていたり、5章につながっていたりと、2周目をプレイするとかなり面白そう。
4章終わりで主人公が九条家の掟を出して安岡先生を帰したがるのは初プレイ時に少し違和感があったけど、あれはメリイの役割を果たそうとしていたのと同時に正宗の記憶が戻りつつあったところもあったのかもしれないですね。面白いな。
・印人
愛ちゃん、安岡先生、まどかさん。
まどかさんは後で出番ありそう…と思ったので愛ちゃんメインで必要なところだけ安岡先生。
怪異戦は一択だし道中は安岡先生だしと印人を選ぶ楽しみが減っちゃうのは残念なところ。
よく言えば「怪異の危険度が増し、偶然にもこの人物と出会っていなかったら間違いなく全滅していた」とする表現とも取れるけどもプラスの印象はあまりないです。
愛ちゃんは勉強はできないけど無能というほどでもないのがいいバランス。というか本作はひたすら邪魔なだけの印人・死んでも構わないと思える印人がいないのは良いですね。
安岡先生もかなり好き。見た目も華やかで良いし、破壊ルートの態度もいい感じ。
まどかさんは分類するなら真下さんに近いタイプで、情が薄い。破壊ルートでも淡々としているからそこは真下さんとは違うかな。一番嫌われやすいタイプではあるけどその分情報を持っている+5章で必須ということでメタ的にバランスが取られている気がする。
○5章 観音兵
まずは観音兵部分の話からする。
私は歴史モノが嫌いなので、先の大戦…みたいな話題が増えてくる4章あたりからテンションが下がっていたんだけど、5章はかなり楽しめた。実際の歴史上で何が起こったかとはほぼ関係がないからかもしれない。廃仏毀釈は歴史ではなく宗教学の範囲なので好き。
地下だからこその重い空気感、軍歌、血など、やっぱり地下施設はホラーが似合うなあという印象で気に入っている。
・印人
大門さん、まどかさん、バンシー。
同行は前半大門さんで後半まどかさん。
まどかさんが心霊に恐怖を感じるタイプではあるものの気持ちの切り替えが早いので、探索中に感情を出す人があまり多くない気がする。寂しい気もするけど感情に振り回されずどんどん進めるのは楽な気もする。
終盤でナタをわたしてくれるのは大門さんとバンシーの分岐があるらしく、私はバンシーから受け取ったので2周目やるなら大門さんから受け取りたいですね。
○5章 メリイ
バンシーの「思い出した」からの流れがむしろ本番って感じで大好き。
ここからは最低限のデッドリーチョイスしかなく、ともすれば読むだけの説明に終始しそうなところだけどバンシーの性格が性格なので楽しく読めてよかった。
「アイツ」って誰だ…? になっているシーンはもちろん、九条館に戻った時にメリイがいた時のお前ーーーーー!!!!ってなるのが楽しくてたまらない。
崩壊するメリイの顔面も気持ち悪くて大好き。
ノーマルエンドはメリイ復活で恐怖は終わらない…ENDだとは分かるんだけど、印人の死亡でそこに分岐する理由はちょっと分かっていない。
特に作中世界における理由はないのか、死亡した印人の怨念が怪異化して穢れが増す→メリイ即復活なのかどうなんだろう。ちょっと他の人の考えも知りたい。
○6章
元はDLCらしいのでおまけらしい感じ。と言いつつボリュームで言うと他の章1つと同じくらいあるのが嬉しい。
出番の少なかった印人の救済的なシナリオかと思ったけど真下さんの出番がやけに多いので単純にサービスシナリオくらいの気持ちでよさそう。
別に出番に傾斜があるとよくないわけでもない…と思いつつ、何しに来たのか謎な翔くんはちょっと不遇だった。他のメンバーは出番が少なくても意味があったりしたのに、翔だけ完全に無意味だったのでは…?
いや厳密にはつかさくんもあまり意味はなかったか。しかし彼は序盤だけとはいえ出番が多かったからなあ…翔はほぼずっと発狂でちょい役だからなんとも…デッドリーチョイスで描き下ろしイラストはあったけども……。
あくまでおまけの6章に言うことでもないけど、6章は気になるところが他にもいくつかあり、配電盤の修理の儀式が必要だったか分からないところが気になっている。
怪異の事情に停電や電気はあまり関係なかったと思うので、なんのために? とは思う。しかしS子は四角四面というかルールに従いたい人だったらしいので、電気が通っていない建物に儀式で通電する必要があったのかもしれない。
怪異の姿もあまり納得できないけど、蜘蛛を食べたから一体化した、という彼女自身のイメージだろうか。あとは単純に先生に異常なこだわりを見せているからそこから蜘蛛なのかもしれない。
とはいえその整合性のなさこそメリイの手がかかっていないから…と解釈することもできるかもしれませんね。
○
感想は以上。
本当は印人の死亡後の後日談を全員分回収したいんだけど、探索パートやシナリオ部分のスキップ機能がないのでまたイチからやるとなると前向きな気持ちにはなれないのが正直なところ。
可能性は低いけどやりたくなったらやるかも。上質なホラーに触れられたのはかなり楽しかったです。