るーむ私記

プライベーーートなブログです

【感想】Ever17

 全エンディングを確認、既読スキップを使えるところは使って総プレイ時間は35時間くらい。

 既にたくさんの人に言い尽くされている通り、SFのクオリティが高く、最終章での回収がとにかく気持ちいい。
 ネタバレ禁止が叫ばれる作品で、私はネタバレを多少知った状態で遊んだけど、それでもシナリオに翻弄されてしまった。ネタバレ無しでプレイするのが理想だけど、多少知っちゃった程度でプレイを諦めるのはもったいない名作。

 序盤~中盤にかけてはダルい描写が多く、最終章に入ってなお中だるみがあるので、そこを乗り越えられるかは課題。
 そもそもPSP本体とソフトを揃えなければいけないのでプレイのハードルは高いけど、もしも中古市場でソフトを見かけたらぜひプレイして欲しいです。

 いくつかエンディングがあるけど、最初に武視点(俺orぼくの選択肢で「俺」を選ぶ)以外は好きにしてOK。最後に見るべきシナリオは最後に開放されるし、開放アナウンスがあるので混乱することはなさそう。

 以下ネタバレあり。



○世界観

 武視点(2017年)と少年視点(2034年)はひとつの出来事を別視点で見た物語ではなく、そもそも時代が違う……しかも少年視点は仕組まれた物語で、と要素が盛り盛り。
 それでいて破綻はない。優美聖春香菜が優美聖秋香菜を産んだ経緯にぽっと出感があったり、ココ編のエンディングで陽一に出来なかったライプリヒの告発が優美聖春香菜には出来ている・空が受肉していることにご都合感があったりはするものの、物語の楽しさを毀損するものはなかったと思う。

○シナリオ

 面白いところとそうでないところが二分されているけど、文章のクオリティは一定水準を保っている。
 アドベンチャーゲームは背景+立ち絵+音楽があるので人物描写が小説ほど重要ではないので、目の前の出来事など具体的な描写が苦手な方もおられるかと思うんだけど、その点で言えばかなり質が良かった。
 特にココ編終盤、2017年に武とココを救い出してしまったせいでパラドクスが起こって2034年世界で武の肉体が崩壊するシーンはかなり良かった。皮膚→筋線維→内臓…と崩壊して、最後に骨格が崩れる描写は理に適っているしイメージしやすくてかなり気に入っている。
 あとはココ編での武・つぐみが肌を合わせるシーンも、具体的な描写はないけどそれっぽい→会話をしながらつぐみが胸元を整える描写で何があったのかほぼ確実に分かるのも好き。品がある。

 面白くなかったところは、シリアスが加速する前のだいたい全て。各編における共通部、もっと言うと5月5日以前のシナリオの大半。

 これは時代によるものも大きいとは思う。本作の発売日が2002年、私がプレイしたのが2022年と20年空いているし、その間に恋愛アドベンチャーのテキストのノリに変化はあったと思われる。なので今の私から見て古臭い感じがするのは仕方ないと思うけど、冗長な印象はぬぐい切れない。

 時代によるものだろうけどイヤだったのは、どんな状況であっても「いじめる」の表記が「いぢめる」だったこと。なんでか分かんないけどゼロ年代ってそういうノリあったよね……。

 特に興味が持てなかったのは、少年視点での沙羅とのモノマネ(胸ふぢことかが出るやつ)と、武視点での「肉おいちい♪」。
 前者は選択肢が入るので既読スキップが絶対止まる+そのうえでまったくつまらんものを見せられるのが嫌、後者はマジで意味が分からなくて邪魔だったので嫌。
 ヤミオニについても選択肢がいっぱい出るしめんどくさいにはめんどくさいけど、誰が缶を蹴ったのかとか分岐による差が結構楽しいので別にいい。
 あとはつぐみが武のスペシャルサンド(ピザの味がする)を食べるシーンも意味……あるか? とは思った。いや娯楽でみる物語のすべてに意味はなくてもいいんだけど、私には邪魔だった。

 日常のゆるみがあってこそシリアスは映えるのだけど、もうちょっとコンパクトだったら嬉しかった気はする。マグロとかなんだったんだあれ。食べ物を破棄するな。

 もちろんココ編開放前、5月5日以前でもシリアスはそれなりに繰り広げられるしそこは面白い。
 ただ、物語のアップダウンが激しく、面白くなった(本筋に近づいた)かと思えば面白くなくなった(本筋から離れた)……というのが繰り返されるので、特に1~2周目はダレた。
 私が強くそう感じたのは武視点において少年がタツタサンドを投げるシーン。その前が(1周目はつぐみ編の流れを追っていたので)つぐみのシリアスエピソードだったこともあり、隠された研究所の謎みたいなのに近付ける…!? と思ってワクワクした矢先に子どものワガママに付き合わされたので最悪になっちゃった。

 あとは本筋と関係のあるエッセンスが日常描写(タツタサンドまわり、ヤミオニなど)に挟まれるので、初見だと大事なのか大事じゃないのか判断がつきにくく、そこでダレる人はいるかも。
 つぐみ編・沙羅編は隠喩が少なく、分かりやすく分かりやすい話なので良いとして、空編のn+1次元の視点・優編の第三の目・ココ編の八尾比丘尼・武視点共通のピグマリオンあたりは内容そのものに興味が持てるかどうかで印象が変わりそう。私はn+1次元は面白かった、第三の目はほどほど、八尾比丘尼ピグマリオンは興味なし(というか知ってる話しかない)という感じ。
 作品特有の設定説明、本作で言うとLeMUとかRSDとかを長々読まされるのは別にいいんだけど、現実に存在する神話や伝承のエピソードはプレイヤー個々人によって知識量が違うから扱いって難しいんですね。

 日常だったりギャグっぽい描写は冗長で好きじゃないんだけど、それはそれとしてココ編ラストで生き延びた武がココ・ホクト・ピピとじゃれ合うシーンは無駄に長すぎて逆に面白かった。特にピピの「また遠吠えだろ!」「……わぉん……」「逆に面白いな!」(意訳)のくだり。あそこだけは笑っちゃった。

○キャラクターの感想

・武

 ひょうきんだけど決めるところは決める恋愛アドベンチャーの主人公らしい人物像。ホクトと並んで私(プレイヤー)の視点を担う者だけど、武は過去があるキャラクターですね。
 ココ編での水没した武が生き返るシーン、これつぐみ編・空編グッドでも水中で生きちゃってたのでは!? と思ったけど、これはあくまでホクトの呼びかけによって生還できただけで、特別な刺激がなければ順当に意識不明→溺死のルートを辿っていると考えてよさそう。

 武と一緒にLeMUに来た友人、可哀相だな……遊びに来たせいで武を喪うしココ編では17年後に武が当時のまま出てきたうえ急に二児の父になってるし。めちゃくちゃビビっただろうな~~~。

・優春

 経産婦。
 優春の心臓病→クローン(優秋)出産あたりは無理やり感というか、物語のために頑張ったのですねという印象があって好きじゃない。
 恋愛アドベンチャーゲームの恋愛対象となりうるキャラクターの宿命ではあるんだろうけど、優春の処女性が担保されたのが気に喰わなかったのはある。クローンを出産するに至る優春の考えもあまり理解はできなかったけど、狂気として描かれてもいたので理解できなくても別によさそう。

 それはそうとキャラクターとしては好感を抱いている。
 優秋の視点だと色々よくない部分は見えてくるけどプレイヤー視点ではそうするしかなかったのは分かるし、優春と優秋はエンディング後にも親子として時間を過ごしていくからいずれ和解できるでしょうと思っている。
 これは空も同じだけど、武への恋心が叶わないのはちょっと悲しい。特に優の場合、恋愛フラグがなければそもそも恋愛感情も湧かなかっただろう空と違って優は全編にわたって武への恋愛感情があるのに全編にわたって感情が成就していないので不憫。

 冷静に考えると

・武への感情は絶対に成就しない
・全編で父母を喪っている
・武の居場所を知っているのに救助は17年我慢しなきゃいけない
・(少年視点沙羅バッドエンドだと)武・ココの救出どころかホクト・沙羅すら喪い、おそらくその後の優秋との関係性が最悪になる
・心臓病の都合上、自分がいつ死ぬか分からない
・ココ編エンド時点での優秋との関係性は(いずれ良くなる気配はあるけど)良好ではない
・ライプリヒ製薬がなくなるので無職がほぼ確定

 とだいぶ厳しい人生を送っている。
 優春のモノローグからすると優春は優秋を出産した時点でもう優春としての人生は捨てているので、優春の不幸は優春自身が問題としていないんだけど、それはそれで物悲しいことですよね……と思っている。

・優秋

 生まれることに同意もしていないのに可哀相に……と思ってしまうけど生き物って本来そういうものだった。
 クローン体の悲哀って「実年齢と肉体年齢が釣り合わない」「なんらかの使命の継続のための人生しか許されない」あたりがあるんだけど、優秋はその辺の悲哀と切り離されているのが珍しいと思った。母子家庭ではあるけど不足はない暮らしをしてるっぽいし、優春(ゆきえ)からの愛情もあっただろうし、もしかしたらフィクションの中で最も恵まれたクローン体かもしれませんね。

 ホクトとは恋人になることもあるけど、本編中での具体的な恋愛エピソードがあまり思い出せない。更衣室でのマジックペンの出し入れはあったけど恋愛っぽくなるのはLeMU脱出後なのでいまいち弱い気がする。
 これは妄想の甲斐があると換言もできますね。想像力を広げよう!

・沙羅

 ホクトの妹なのに優秋よりも恋愛っぽいエピソードが豊富でなんなんだ。
 とはいえココ編では蚊帳の外に置かれがちで存在感が薄くなるので仕方ないのかもしれない。
 やけにニンニンしてるな~~とは思っていたけど別に本筋には関係なくニンニンしているだけだった。

 スキル的には優秋<<沙羅なんだけど、沙羅がやっていることがホクトの理解の外すぎて、作中ではクラッキングよりVS空の能力バトルっぽくなってるのは面白かった。

 日常パートではニンニンして、ホクトとの関係性がハッキリするとお兄ちゃん大好きになっちゃうので、あまり沙羅のパーソナルに触れられた手ごたえがなかった。

 結局一番印象に残ったシーンは少年視点でココ編に突入するための選択肢かもしれない。どうして私(沙羅)の名前を知っているのか、空がRSDであることを知っているのかなどの切り込みをしてくれた印象が強く、そういう沙羅が好きなんだな~と思った。
 ……要は私が沙羅に求めていたものって、恋愛の対象や可愛くて守るべき妹ではなく、突出した能力を持つパートナー・バディだったのかもしれない。そういう意味ではFate/stay night遠坂凛っぽさを感じる。声優も同じだし。

・つぐみ

 武視点でもしっかり恋愛がありココ編でも掘り下げが深く、本作のヒロインを一人だけ選べと言われたら迷うことなくつぐみを選ぶ。

 ココ編での過去回想は胸に迫るものがあるし、だからこそエンディングで見せた振る舞いの愛らしさが増す。つぐみ自身が抱えるキュレイ種としての問題は残り、優春を見るにキュレイに感染した武はつぐみよりは早く年老いると思われるので未来のすべてが明るいわけではないかもしれないけど、これまでの人生の中で一番明るく生きていけるのは救いだと思う。

 武視点でのチャミ救出の際に見せる表情も可愛いし、自分がキュレイであることを明かし、チャミを握り潰すシーンもやっていることの恐ろしさによってつぐみが抱えているものの重さが感じられて大好き。

・ホクト

 私かもしれない。
 別にいいけどBWが「彼」と表記されてるのは寂しかったな。

 黒髪の両親から生まれた金髪ボーイ。ココ編ではBWとの境界線が曖昧で少年はいるけど少年という感じではなく、他編では不安げでナイーブな印象が強い。

・空

 恋愛教室での可愛さは異常。
 こちらも正史では失恋が確定しているのでちょっと寂しい……嫉妬に狂った空が可愛かったから特に悲しい。空編グッドエンドの面白さが減ってしまうけど、空が恋愛対象と定めたのが武以外だったらよかったのにな~~。
 別の人に恋をして欲しかったという話ではなく、武一人に定めないでほしかったというか……恋をしてみたくなったので倉成さんを好きということにしてみます、くらいの淡泊さで進んで欲しかった。空の恋が叶わないのは悲しいから。

 ココ編ラストで受肉していたのはどういう事情だったのかよく理解できなかった。単純に技術の進歩?

・桑古木(少年)

 名前にしっくり来てないので少年って呼ぶね。武視点の少年であり少年視点の武の人。

 この人も存在が舞台装置なので印象は特にない……少年視点ではタツタサンドしか食べられないことに癇癪を起さなくて偉いね、と思ったけど全然飲酒とかしてたし自己解決能力が上がっただけかも。
 もう一度少年視点をプレイすることで彼の深みは増すんだと思う。

・ココ

 電波系の雰囲気+最終章のヒロインということで、シュタゲのまゆり的なポジションかと思っていたけど真逆に近かった。

 ココが第四視点を持つのに解決に能動的出ないように見えるのは、BW(≒私)介入前のすべてを見ていて、優春たちがBW発現のために色々やることを知っていたから静観したと見て良さそう。少年視点で姿を見せることもあったし静観していないとも言えるし、2034年に沙羅が主体となった行動を2017年に後追いすることで齟齬を減らすことでBWを騙す一助になったりと、何もしていないわけではないのかも。

○余談

 PSP本体を持っておらず本作のソフトも入手困難だったのでプレイしたいと思いつつ諦めていたところ、色々あって知人から本体+ソフトを借り受けられた。メモリースティックは自前で調達。
 せっかく借りられたんだしこの手のゲームは初見感想を聞くのも楽しいだろうと思って知人にはなるべく途中途中の進捗や感想を報告していた。予想通り楽しんでもらえて何より。
 そしてクリアした今、今度は私が人の初見感想を見て楽しむ領域にいるんだな~~と思うとハッピーですね。

Ever17が好きならこれもお勧め」みたいな文言は世界に溢れているので、そういうのを辿ってまた良作を探したいと思います。