思い入れの強い小説を5作挙げます。興味が湧いたらぜひ読んでね!
私が読んだ順。
いしいしんじ「麦ふみクーツェ」
小学3年生の時、学級文庫に単行本が入っていた。
単行本で441ページあるこの本は、学級文庫に入っている他の本と比べて遥かに分厚く、異彩を放っていた。
私は学級文庫にある本はなんでも(嘘、かいけつゾロリ以外)読むようにしていたけど、さすがにこの本は極厚すぎて手を出せずにいた。
ただ、クラスのお調子者たちがこの分厚い本を指して「お前これ読めよ~w」「無理に決まってんだろ~w」などと言ってふざけているのを見て逆張り精神が働き、読んだ。
当時の私に読めるギリギリの文量はダレン・シャン1冊分だったので、特に序盤はかなり苦戦した。
とりあえず文字を追っている、くらいの感じで読み進めていたのだけど、みどり色が登場した瞬間、一気に引き込まれてもう一回最初から読み直した。
想像したこともない景色が目の前に展開されて、コンサートホールや船の上にいつでも行ける。圧倒的に鮮やかで美しいものがこの本にはある。
本作には「みどり色」という名前の人間が出てくるんですが、彼女の存在には胸を撃ち抜かれた。
私が色の緑に執着するようになったきっかけは彼女です。それまでは一番嫌いな色だったのに、みどり色がいるせいで私は色の緑を愛するようになってしまった。
本を読む子どもは全員読んだ方がいいレベルの名作。あめ玉くださいを繰り返すオウムや物売りのセールスマンなど、端々の登場人物も魅力的。もちろん主人公の『ねこ』も好きで、終盤のにゃあ!の連呼はかなり胸に来た。
川上弘美「いとしい」
小学6年生か中学1年生かそのくらいの時期に、家にあったので読んだ。
恋愛小説…ということで紹介されているけど、読んでいる時は恋愛小説だと特に思ってなかったな。ジャンルの認識に疎かったのかもしれない。
序盤のユリエとマリエの幼少期エピソードに漂う官能感が好き。
髪の毛が絡まるほどの触れ合いの甘美さも捨てがたいけど、一番気に入っているのはマリエが涙を流しながら「ひつうな」と繰り返すところ。悲痛さ、悲愴さに浸って泣く時の気持ち良さを強く感じる。
私は川上弘美氏が好きなので著書はエッセイ含め全部読んでるんですが、その中でも本作が特別なのは、読書で泣く経験を初めてしたから。
シーンで言うと、ミドリ子の繭が解けるシーン。感動とか悲しみみたいな、涙に繋がるシーンでもないのに泣けてきて、この経験は大事だと直感的に理解した。
恩田陸「三月は深き紅の淵を」
今でも恩田陸氏の本の中で一番好きです。次点はユージニア。
四章構成の物語の中で語られる本、そして謎の男……とロマンてんこ盛りで、かなりグッとくる。
分かりやすい話じゃないしそもそも解答が用意されているわけではないので好みは分かれそうだけど、謎を盛るだけ盛って立ち去ったこの物語は楽しい。
氏の本はこの手の謎を散りばめたミステリアスな本(ミステリではない)と、王道を行くエンタメ系に二分されていると思っていて、私の好みは圧倒的に前者。
具体的なタイトルを挙げると、前者は「六番目の小夜子」「ロミオとロミオは永遠に」「ユージニア」「私の家では何も起こらない」あたりが該当。
後者は「夜のピクニック」「ドミノ」「蜜蜂と遠雷」とか。こっちは私の琴線に触れない作品で、別にいいけど恩田陸じゃなくてもいい、みたいな感想を抱く。米澤穂信「ボトルネック」に抱いてる感想と同じ。
ミステリアスで、後を引く物語を書いた時は絶品を出してくれる作家なのでそういうのをいっぱい書いてくれ~と思っている。
ユージニアは文庫で買った上で、解説を読んで装丁に興味を持ったので単行本も持っている。
中山咲「ヘンリエッタ」
読書が好きな自覚を持った時期に、文芸誌をいくつか購読していた。
ダ・ヴィンチと文藝春秋、他にも気分で読んでいた頃に、第43回文藝賞の受賞作品として本書を読んだ。
作品を読んですぐに講評も読んだので、自分の考えと他人の考えが混在していて感想はちょっと書きにくい。
主人公の置かれている環境を羨ましく思ったのは覚えてる。みーさんを苦手に感じるところも含めて都合の良い世界という感じがして、入り浸るようにして何度も読んだ。
みーさんの存在感が強く、本書を思い出そうとするとみーさんの記憶がよぎる。あとはお母さんとたこ焼きを食べるエピソード。
どちらもネガティブめなエピソードで、思い出せばマイナス感情が湧くのに全体を通して幸せな気がする点は、私にとってのノスタルジーと近い感覚。
今でも定期的に思い出しては、中山咲さんの動向を探っている。
同じ枠でたまに探しているのは「些末なおもいで」でデビューした埜田杳氏もです。また読めたら嬉しい。
いしいしんじ「トリツカレ男」
思い出の深さは麦ふみクーツェの方が上だけど、好きさで言うと本作が一番。どちらにせよ思い入れは強い。
いしいしんじ氏の作品は麦ふみクーツェがとにかく特別なので、氏の作品を色々読んでいた時期があった。
その中で一番ハマったのがトリツカレ男。
人に本を選ぶ機会があれば、まず間違いなく一冊目はこれにしている。
ページ数が少ない・語り口調の軽さが読みやすい・文庫で500円以下なので買いやすい(買わせやすい)・ベタなラブストーリー、子弟関係、第四の壁要素などフックが多いので万人受けしやすい あたりが理由。一番大きい理由は私が好きだから。
明快で爽やかなラブストーリー。ジュゼッペとペチカが出会った町のすべてが愛しくなる名作です。
付録:選から漏れた思い入れの深い本
・森見登美彦「太陽の塔」:こんなに笑った本は初めてだよ
・豊島ミホ「底辺女子高生」:読んだタイミングが良かったので、今読むとそんなにかもしれない
・村上春樹「東京奇譚集」:「人生で出会う異性のうち価値があるのは3人」は私の価値観にかなり影響を及ぼした
・ジャック・ケッチャム「隣の家の少女」:家にあることすら忌々しくて捨てた本はこれが初めて。怖いもの見たさで読んでいい内容ではなかった
・小池真理子「墓地を見おろす家」:残穢の怖さは分からないけどこれは怖い! エレベータのあるマンション住まいの方なら怖さ倍プッシュ
・本谷由希子「乱暴と待機」:こういう方向の性欲の話って書いてもいいんだ…と思った記憶がある。当時の私には刺激的だった。ファイナルファンタジックスーパーノーフラット(脚本)も好きです
・桐野夏生「リアルワールド」:小学校高学年~中学生の頃に読み漁っていた。残虐記・柔らかな頬も好きなんだけど個人的な思い出が強いのはこれ。四人の女に関する解説文も好き。